森ちゃんの修理ブログ#6 ちょっとだけよ、あんたも好きね
今回は修理の内幕を「ちょっとだけよ」
前回、#4 ふつうの女の子に戻りたい の回でO市のD様のハンマーパンク発見の顛末についてお話しましたが、工場よりハンマーができてきました。
まっさらな新品ハンマーです。
見本に角度の変わり目のハンマーを6個程技術者に渡し元のハンマーそっくりに作りました。
次はハンマーの取り外しです。
ハンマーのみがダメになっているので、シャンク(ハンマーの柄の部分)まで既存の部品を生かします。ピアノに取り付けてあるハンマーは、ハンマーウッドの後ろの部分に穴を開けてシャンクに接着剤を塗布し差し込んであります。昔は膠(ニカワ)を使っていましたが、現在はボンドが多く使われています。
(弊社取り扱いのスタインウェイは、現在も膠を使っています。弊社ではスタインウェイのハンマーを交換する時は、膠を使います。)
ホームセンターに売っているものとは違い、メーカーで研究し専用に開発した接着剤です。
耐久性があり、適度な硬度と粘りがある特別なもので、ピアノメーカーによって使われるものは違います。なぜなら、此のボンドの硬さと粘りがピアノの音にかなり影響が出るという設計者もいるとかいないとか。
今回のボンドは、弊社専用のものを使っております。
さてハンマーを外すには、熱を加え接着剤を柔らかくしてシャンクを抜きます。
写真のようにヒーターのついたペンチのような専用工具でハンマーウッドを暖め抜きます。
結構手間がかかります。
抜いたあとはシャンクに残った接着剤を綺麗に取り去り、再び88鍵分を取り付けます。
このあとハンマーを取り付けるのですが、ハンマーが弦を打つ位置(高さ)によって音の響き・パワーがガラッと変ります。
此の位置を打弦点といいますが、特に最高音部では微妙な調整が必要となります。
此の位置を探し出して理想的な打弦位置に取り付けるのも技術者の腕の見せ所です。
そして、ハンマーの高さを揃えて高さ・間隔・弦の位置に合わせ、出来るだけ均一になるよう次々と植えてゆきます。
どうですか?ハンマーを交換するということは、こんなにも気を使って作業するんですよ。
このあとハンマーの整音作業を行います、
ハンマーは1枚のフェルトから1台分作られるのですが、場所によって微妙に密度・硬度が違います。これを針を刺して音質のバランスを取るのですが、針を刺す位置とか、深さとか、回数とか職人の感覚の作業となります。
私にはできません。
ハンマー交換と一口に言っても、私に言わせれば、神の領域のように思えます。
これもメーカーの技術者だからこそ出来る部分と信頼して作業を工場に御願いしています。