ゴールデンウィーク休業日のお知らせ

ホーム > 森ちゃんの修理ブログ > 森ちゃんの修理ブログ#15アポロ A-7 昭和45年5月29日生産・出荷(私は未だ社員ではありません)

森ちゃんの修理ブログ#15アポロ A-7 昭和45年5月29日生産・出荷(私は未だ社員ではありません)

今回は此のピアノと一緒に戦後昭和史の一部を紹介しましょう。

今回のピアノは昭和45年(1970年)生産・出荷の46年前のピアノです。
この時代のピアノを感慨深く見るのは、私だけでしょうか。今、1970年と聞いてああそうだったのかと思う方はどれほどおられるのでしょうか。
私は昭和28年生まれで当時高校3年でした。昭和46年3月に地元の高校を卒業しております。

1屋根蝶番.png


2鍵盤.png3チューニングピン.png4ペダル.png5譜面台蝶板.png6鍵盤蓋.png7上前パネル.png8キャスター.png9鍵盤蓋 外側.png10上前パネルその2.png

屋根蝶番に・鍵などにかなり緑青が浮いて46年の歳月を感じさせます。
昔は、緑青は毒だと云われておりましたが、現在では科学的に毒性がないと証明されていると聞いております。
が、あまり気持ちの良いものではありませんね。

真鍮は銅と亜鉛の合金の為、銅と同じような性質があります。
ペタルを見ると、変色しております。
これは表面の酸化被膜で、厚さ20~200nm(ナノメートル;1nm=1/10億メートル)とかなり薄、此の被膜のおかげで急速な錆の浸潤を妨げているようです。
その為コンパウンドを付けたバフで研磨すると酸化被膜が取れ、最初の輝を取り戻しました。

どうですか、

40数年ぶりの

輝きは。

此のピアノが製造された日は、昭和45年5月29日です。
この日より25日後の6月23日、日米安全保障条約が自動延長されました。
本当に偶然ですがこんな時代に生まれてきたんですよ。この時代のことを少しお伝えしましょう。

~日米安全保障条約~

1951年(昭和26年)9月8日サンフランシスコにて、第2次世界大戦の連合国47か国と日本の間でサンフランシスコ講和条約が締結されましたが、主席全権委員であった吉田茂首相は同時に平和条約に潜り込まされていた特約(第6条a項但し書き。二国間協定による特定国軍の駐留容認)に基づき「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(旧日安全保障条約)に署名しました。此の条約により日本を占領していた連合国の1国であるアメリカ軍は「在日米軍」として継続して日本の駐留する事が可能になったのです

~60年安保~

1958年頃より岸信介内閣により条約改定の交渉が始まり1960年1月に岸首相以下全権団が渡米しアイゼンハワー大統領と会談し1月19日新条約に調印した。これに反対するデモが活発化する中5月19日国会で「新安保条約」が採決された。

しかしこの日、国会前のデモは巨大化し13万人(警視庁発表)もの規模となり。多くの負傷者・逮捕者が出た。これにより岸内閣は総辞職をしたが、条約は6月19日自然成立。次の池田隼人内閣が「所得倍増計画」を打ち出す中次第に運動も衰退していった。

~70年安保~

昭和45年に10年間の期限を終えた日米安保条約が自動延長するに当たりこれを阻止して、条約を破棄させようとする運動がおこる。1963年~1969年にかけて全共闘や、新左翼諸派の学生運動が全国的に盛んとなり、全国の主要国立大・私大ではバリケード封鎖が行われ、70年安保粉砕をスローガンとして、大きなデモンストレーションが、全国的に展開された。
此のピアノはちょうどそのような時代背景の中から生まれてきました。だんだん世の中が豊かになってきて、多くの方が教養としてのピアノレッスンを受けるようになったのです。

直ったピアノを見るにつけ、受験勉強をしたあの頃、受験に失敗したあの時。浪人時代。大学に合格したあの時。学園紛争での大学ロックアウト。毎朝見る機動隊のバスと警備の機動隊員。全共闘のアジ演説と特別な字体で書かれた立て看板。

私でさえ1台のピアノに出会うとこんなにも思い出が蘇るのですから、多感な時期にご両親に買って頂いた高価な楽器に思い出がないはずがありません。
修理代金は、決してお安い金額だとは思っていませんが、中途半端な誤魔化しの修理があっていいはずはないと思います。

さて、長々と横道に逸れてしまいましたが、

今回のピアノ(A-7)は、ご実家M市のA様の 元よりJ市のお嬢様Y様へのお届けです。
特に此のピアノは外装の劣化が進行しており、全塗装+内部修理クリーニングのコースで仕上げました。
金属部品は研磨すれば十分綺麗になる状況で、外装はさすがに厳しく最新のポリウレタン系の塗料で塗り直しました。
妻土台と云う脚がのっかっている部品ですが、正面の化粧板が剥がれておりました。
この場合下地を作り直して、サフェーサーと云う下地用の塗料を塗って研磨し、その上に黒の塗料を塗って研磨しています。新品と同じ工程で修理をする為、最初にお求め戴いた状況に限りなく近くなっています。
但し塗料自体は46年前の物から格段に進歩していますので、耐久性は依然と比較にならないほど向上しています。要するに全塗装することによって新品当時より外装に関しては品質が上がったと云う事です。
他の部分もご覧ください。修理前と修理後の画像をご覧いただければ、どれだけ変わったかが感じて頂けると思います。

弊社では、お客様のご予算とご希望に沿って修理方法を提案致します。
無理のない御予算内でご連絡を戴ければ、ご予算に沿った修理を致します。

次回はまた別のピアノの修理の様子をご案内します。楽しみにお待ちください。

2016.10.06